お菓子処「小冨士屋」のひな飾りと冬の味覚「水ようかん」|2022岩室温泉ひな巡り最終章
ここまで三部作で書き進めてきた開催8回目を数えた「岩室温泉ひな巡り」の話も、いよいよ今回が最終章となります。
実は今回のイベントに際し、10台分の駐車場を無料開放してくださったのが岩室温泉街で菓子店を営む小冨士屋さんで、温泉街にある利便性から我が家も有難く利用させていただきました。小冨士屋さんはひな巡りの足休め処でもあり、おすすめグルメを販売する12店舗のうちのひとつでもありました。
駐車場をお借りしたご縁から何気なく立ち寄ってみたお店でしたが、店内をウロウロしていた時に奥様が小休憩にと出してくださったのが一皿の水ようかんだったのです。
そう!岩室で水ようかんといったら、寒い時にだけ味わえる冬季限定スイーツなんです。
明治初期創業の老舗菓子処「小冨士屋」

岩室温泉街に店舗を構える「小冨士屋」の創業は明治初期のことで、すでに150年余の歴史をもつ老舗菓子処です。
店舗は旅館「富士屋」の向かいにあり、この旅館から一番最初に出た分家であるため「小冨士屋」という屋号になったそうです。

小冨士屋さんの店先にも、岩室在住のロックペイント作家・増川さんのいしネコ作品が置かれていました。

小冨士屋のひな飾り

小冨士屋さんの店内には、武藤家のひな人形や着物が展示されていました。写真の左隅にも、小さないしネコ雛が華を添えているのが見えますね。
向かい干支
小冨士屋さんの展示で興味深かったのが、十二支の羽子板に添えられた「向かい干支」についての説明でした。
向かい干支とは、十二支を順に円状に並べた時、自分の干支の対角線にある干支のことをいいます。
- 子と午
- 丑と未
- 寅と申
- 卯と酉
- 辰と戌
- 巳と亥
「守り干支」や「裏干支」「逆さ干支」といった呼び方もされる向かい干支。十二支にはそれぞれに違う性質があるといわれていて、向かい干支は自分と真逆の性質を持つため自分にはないパワーがあるとされています。そのようなことから向かい干支を大切にすると幸福が訪れるといわれており、江戸時代より向かい干支は縁起の良いラッキーアイテムとされてきました。
昔は子どもの着物の背中に向かい干支をあしらう風習があったそうで、子どもの晴れ着に母親が刺繍を入れていたのだそうです。ひな人形と同じように、こんなところにも親心が感じられるエピソードだと思いました。

お店に飾られたお雛様を拝見したあとは、明治初期創業という歴史をもつ小冨士屋さんの商品についても触れてみようと思います。
代々アイデア商品を生み出してきた小冨士屋
北国街道が通る岩室地域は新潟県の芸者発祥の地でもあり、最盛期には100名以上の芸者がいて観光客をもてなしていました。そのため小冨士屋初代の頃は置屋をしており、二代目の時代から観光客のお土産になる温泉饅頭などを製造・販売するようになりました。
以来、代が変わるごとに時代に沿った新しい名物菓子を生み出す名店となり、現在は五代、六代、七代目の三世代でお店を切り盛りされています。

店内にメインとして飾られた雛壇の前には、岩室温泉ひな巡りのまち歩きパンフレットにおすすめスイーツとして載っていた「いちご大福」の可愛いポップがありました。
小冨士屋さんのいちご大福は他とは一味違った練乳餡が使われています。このアイデアは2018年から家業に入った七代目のもので、使ういちごにも拘って改良したお陰で人気商品となったそうです。また温泉街での食べ歩きを想定し、ダラダラ溶けない葛入りアイス「葛バー」を開発するなど、すでに若い感性を活かした話題商品が生み出されていることにも良き血筋を感じます。

奥:六代目考案の「豆腐プリン」(300円)|手前:バタークリームが昭和懐かしい「ポン吉」(350円)
小冨士屋三大銘菓と謳っているのが、三代目が考案した「岩室せんべい」、四代目の「雁の子」、五代目の「たまご饅頭」の三品です。なかでも、岩室温泉街でよく目にし、長年にわたり温泉土産として愛され続けている「岩室せんべい」の元祖が小冨士屋さんであったのだと、今回の訪問で初めて知りました。
六代目が考案したのが、豆乳ににがりを合わせた「豆腐プリン」。今では当たり前のようにある商品ですが、小冨士屋さんでは15年ほど前から販売されています。しかもここにも工夫が隠されていて、豆×豆で仕上げてあるのも他店の豆腐プリンとは違ってオリジナリティーを感じるところです。

季節限定「さくら餅」(150円)|桜フレーバー大好きなので最後まで購入を迷いました(笑)
岩室では「冬に水ようかん」が定番!?
店内のあちこちを撮影していると若奥さんが、「お茶もありますから一緒にどうぞ。」と言って、足休め用に店のお菓子が一切れ入った小皿を持ってきてくださいました。
県内にもまん延防止等重点措置が出されていた時だったので、店内でマスクを外すことに少しためらいを感じながらも、せっかくのご厚意なので有難く、店内に用意されていた黒豆茶とともにいただきました。

外は強い風が吹いて寒い日でしたが、ここまで散策し通しだったこともあり、一口頬張ったツルンと冷たい黒い一欠片がことのほか美味しかった!しかし、自分の中に固定観念があって食べた物への確証が持てないので、食べ終えるとまた店内をウロウロ…。
ショーケースの中に山積みされていた商品のネームを見つけ、私の味覚が壊れていたわけではないのを知ってようやく一安心でした(笑)。

冬季限定「水ようかん」(5本入り850円)
へぇ~、冬なのに水ようかんなんだぁ…。
私の独り言のように呟いた言葉が女将さんの耳に届いてしまったようで
「そうなんですよ、この辺では水ようかんは冬の食べ物で、ウチのお店でも11月の中旬から3月の中旬くらいまでしか作らないんです。お風呂上りなんかに、暖かい部屋で冷たい水ようかんはさっぱりして美味しいですよ。」…と。
試食も美味しかったので、私にはとても珍しかった冬の水ようかん、一箱購入してみました。
冬季限定の「水ようかん」は小冨士屋二代目の代表作
小冨士屋さんの水ようかんは、小冨士屋を現在のような菓子店とした二代目が作り始めた冬の看板商品です。江戸時代の中期頃に誕生したといわれる水ようかんが世間一般に広まったのは明治以降になってからのことで、二代目が作り始めた当初、水ようかんは時代の先端を行くスイーツだったのではないかと思われます。
そもそも水ようかんが世の中に出始めの頃は、おせち料理のデザートとして扱われていたこともあって冬のデザートという認識が一般的だったようです。現代の水ようかんとも違っていて、水分が多くて砂糖が少な目にできているので、傷みやすかったことからも冬のお菓子として扱われたようです。

使う材料は水にこしあん、砂糖、寒天と至ってシンプル。水多め、餡子が固まるギリギリの量で煮溶かした寒天液に、こしあんも砂糖も少な目で投入。あまり煮詰めずに作るので驚くほど瑞々しく、この上なく滑らかな口当たりの水ようかんが完成します。
賞味期限は製造日を含めて3日以内。「どんどん水分が出てしまうから…。」と女将さん。
確かに、翌日、翌々日と日を追うごとに水分が抜けていくのが目に見てわかるデリケートな水ようかんでしたが、優しい味わいは日々変わらずにいただくことができました。ご馳走様でした。
おしまいに
水ようかんというと夏に涼を求めて食べるものというイメージが植え付けられていましたが、現代は真冬といっても部屋はあたたかなので、冬に味わう冷たい水ようかんも乙なものだと思いました。しかも小冨士屋さんの水ようかんは水分多くて甘さ控えめ、温泉上がりや宴会の〆にもさっぱりいただけるという温泉街ならではの工夫が隠されたもので、毎年冬の到来をたのしみにしているファンがあるのも頷けます。
今シーズンはすでに販売終了となっている商品ですので、また次の冬にも求めたくなる、歴史はあるのに新感覚の冬季限定の冷スイーツとの出会いとなりました。
ちなみに水ようかんを盛ったのは、小冨士屋さんの歴史と同じく150年ものの我が家で一番古い小皿であったという、どうでも良い情報を添えて終わりにしたいと思います(笑)。
Sunday, February 27, 2022

小冨士屋
- 住所:新潟県新潟市西蒲区岩室温泉576 ※Google Map
- 備考:明治2年創業
-
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