世界の「SUWADA」丸ごとたのしむ新オープンファクトリー|燕三条
実は我が家にもある、一生ものともいわれるSUWADAのつめ切り。
医療や介護の現場はもとより、国内のみならず、海外のネイリストも愛用するという逸品がSUWADAのつめ切りです。
以前は爪やすり派だった私ですが、SUWADAのつめ切りを知ってからは、爪はSUWADAのつめ切りで切ったのちにやすりで整える派に変わりました。パチン、パチンと切る爪切りのイメージとは違い、スパッと衝撃の少ない抜群の切れ味。二枚爪になることもなく、握りのフィット感も良くて使いやすいのです。
そして見て欲しいのが刃合わせの部分。すでに1年半ほど使ったものですが、この刃先に職人技が集結している気がします。
ものづくりに溢れる県央地域
新潟県の中央部にある燕三条地域は、今や世界に誇る金物や洋食器のまち、ものづくりの街として知られています。そのルーツともなったのが、江戸時代に生産の始まった和釘の存在です。
江戸時代の頃の信濃川は豊かな恵みを与える反面、数年に一度の頻度で氾濫し、その度に流域に水害をもたらす存在でした。水に浸かってしまった土地では農業にならず、農民救済のために始まったのが和釘づくりでした。災害も多かった時代、復興のために和釘は需要も多く、次第に燕三条は全国一の和釘産地となって行きます。
その後、和釘制作で金槌を使うという技術を応用し、次第に神社金具などの銅細工へと変化して行きます。その技術から生まれたのが
鎚起銅器の技を習得したのちにスプーン工房を開いた燕市の山崎金属工業は、創設90周年の節目年だった1991年のノーベル賞晩餐会で、カトラリーを提供したことでも知られる世界的なメーカーです。
さらに、そんな金物や洋食器のまちだからこそ生まれたのが、何でも磨き上げてしまう磨きのプロ集団、磨き屋シンジケートの存在であったりします。
このように、古くからものづくりの文化が根付いている燕三条。毎年ものづくりのイベントが開催されたり、一般の人たちに製造現場を開放し、自由に見学したり制作体験ができるような工場(オープンファクトリー)もみられます。
この度お邪魔した諏訪田製作所も、そのうちの一社になります。
ニッパー型刃物をつくり続けてほぼ一世紀!三条市にある諏訪田製作所
お邪魔したのは、冒頭でご紹介したつめ切りの製造元であり、三条市に本社を構える(株)諏訪田製作所です。
諏訪田製作所の創業は大正15年(1926年)のこと。大正12年(1923年)9月に発生した関東大震災の復興時ということもあり、時代の需要に合わせて釘の頭を切るための「喰切」という道具を製造したのがそのはじまりです。以来、刃と刃を合わせて切る喰切型(ニッパー型)刃物の製造に特化し、以来95年にわたって伝統的な技術を受け継ぎつつ、さらにスタイリッシュで時代に沿う商品を生み出しています。
2020年夏に生まれ変わった諏訪田製作所の新社屋
正門からスロープを上がった先にあるのが、諏訪田製作所の新社屋「SUWADA OPEN FACTORY」です。
ちなみに、通路の隅っこのみ積雪が見られるのは、スロープ通路に路面の温度を上げる設備が埋め込まれているためです。至れり尽くせり。
諏訪田製作所は2011年の頃からオープンファクトリーのスタイルで運営を行ってきましたが、さらに金属加工の魅力を発信できる場になるようにと、それまでバラバラにあった施設をまとめ、工場・ショップ・カフェを併設する複合施設を完成させました。新社屋は2020年7月21日にプレオープンとなり、同年9月2日にグランドオープンを迎えています。
営業日・営業時間内なら誰でも自由に入ることができ、職人さんの技を間近で見学することができます。しかも、予約不要・入場無料。全館において写真撮影も可能ですが、作業場ではフラッシュ撮影は禁止とのことでした。
黒を基調とした統一感のあるSUWADAの社屋、喰切型刃物への情熱感じられる工場見学に行ってきます。
エントランスホール|二階
スロープを上がってきたので、社屋の入口は二階になります。
入った先にある広いエントランスホール真正面に、二体のオブジェが「Merry Christmas」とお出迎え。
※記事にするのが年を越してしまい、あまりにも寒い冬で凍結したままでしたが(笑)出掛けたのは昨年のクリスマス前のことでした。ようやく冬眠から覚めた記事であること、ここにご了承ください。ついでに外の雪は、今シーズン最初に雪が積もった時のものです。
近づいてみると、オブジェは製造工程で出る廃材で作られており、全て職人さんたちの手作りだそうです。
そして心臓部には、SUWADAの魂が込められていました。
カフェへと繋がる通路途中にある展示スペース|二階
エントランスにいる精霊オブジェに向かって右手側に曲がると、その奥には併設のカフェ・レストランが見えてきます。至る通路には、諏訪田製作所の歴史や製品の移り変わりなどがわかる展示がされています。
SUWADAのつめ切りスタンダードモデル「Classic(クラシック)」
グッドデザイン賞をはじめとし、数々の受賞歴をもつSUWADA製のつめ切り。その評価は国内にとどまらず、世界の美容関係者からも高い支持を受けています。
レストラン・カフェ|二階
工場なのに、一般向けのレストランやカフェが併設されているお洒落な諏訪田製作所。
併設のCAFE Smiths'(カフェ・スミス)には、イタリアのトップブランド・LA CIMBALI(チンバリ)社製のマシンの堂々たる姿が見え、イタリア産豆を使った本格エスプレッソが楽しめます。
また、社員食堂(写真右)を兼ねたレストラン「SUWADA ショクドウ RESTAURANT CUIQUIRIT(レストラン クイキリ)」では、数量限定で社員さんと同じメニューが味わえるそうです。
SUWADAのマスコット
本来ならばエントランス付近に展示されているはずの諏訪田製作所のマスコットが、この時はカフェ前の一角に置かれていました。
丸いフォルムも可愛い三輪の車は、BMW社の1962年製(最終モデル)Isetta(イセッタ)。
展示専門というわけではなく、すでにレストア整備済みで2020年に日本では初という登録もされており、ちゃんと一般道も走れる車両です。
古いものでもメンテナンスをし、大事にしてあげれば長く使えるというのはSUWADAのつめ切りにも相通じるところ。そんな思いを込めての展示だそうです。
OPEN FACTORYで世界に誇るSUWADAの手仕事を感じる|一階
カフェ前にある階段から下りた先の一階フロアが、SUWADAのつめ切りの製造工程が見学できる工場になっています。ただ、現在は一部見学から外されている工程があるので、その工程については展示物と一緒にご紹介します。
鍛造
別棟にある鍛造工程を行う工場
先の社員食堂の窓の外に見えた建物が、現在は見学ルートから外されている
着いて車を降りた時から、敷地内の何処かで「ドスン、ドスン」という軽い地響きを伴う重く鈍い音が聞こえていたのですが、中では1,000℃以上にもなる高温で熱した材料を、400tという力で叩き鍛えるという最初の大事な工程が行われています。シャッターの小窓に赤い炎が見えているのが分かりますでしょうか。
使われている材料と鍛造による変化
棒状のものはつめ切りの原材料で、カスタムナイフにも使われる高級刃物鋼です。この一本を鍛錬し、特に硬い中心部のみを使ってつめ切りの原型が作られ、周囲に残った7割は廃材となります。
ここまでの作業が終わったものが社屋一階にある作業場に持ち込まれ、製品となってゆく部品加工の様子が見られるのが現在の工場見学です。
ガラス越しに見学できる工場と見学通路
研磨研削
新型コロナに負けず作業中
一階フロアに立つと、まずはずらっと並んだ研磨機に圧倒されます。
一口に研磨研削と言ってもその工程は20ほどもあり、3mもある長尺のサンドペーパーを回転させて作業する機械は、▲手前にあるものは火花が飛び散るような粗削りのもの、▼奥へ行くにしたがって細かく滑らかに磨き上げる作業が成されています。
男性に混じって、女性の職人さんの姿も見えます。諏訪田製作所で働く職人さんは、その3割ほどが女性だそうです。
そして職人さんの作業スペースには大きさを計るような計測器なども無く、削るための機械(道具)のみが並んでいます。ここでの作業は全て、職人さんの経験や勘がものを言うのです。前の工程がしっかり完了していないと、次に渡った時点での修正ができないそうで、個々の責任も大切になってきます。
作業は昔ながらのレース盤という機械によって行われています。モーターで回転する円盤状のものは、全て粗さと硬さが異なります。円盤は違っても、全て同じ機械が置かれています。機械から出ている太いダクトは大型の集塵機で、研磨作業の切削屑や塵を強力に吸い取ります。
どれも昭和の時代から使われ続けている機械ばかりですが、長年使い込んだ大事な相棒たちはメンテナンスが行き届き、職人さんたちの手で真っ黒に塗られ化粧直しがされています。
職人さんたちの作業着も揃いの黒で素敵です。
刃付け工程
ここまで何人もの職人さんがリレーしてきた品に、刃物の息を吹き込む刃付け工程。経験を積んだ熟練職人の腕の見せどころです。
ベルト状になったサンドペーパーが回転する機械を使い、薄く鋭い刃に研いで行きます。ギリギリの切っ先を狙って仕上げる作業は、見守る方も息を殺しながらの見学です。
合刃調整
よく切れる刃物は、左右の刃がぴったりと合うというのが必須条件。ダイヤモンド製のヤスリを駆使し、一丁一丁、手元のライトや自然光にあてて確認しながら、最後の微調整の仕上げ作業が行われます。
とても精密な作業ですので、こちらの職人さんはルーペで拡大して確認しておられました。
職人の手をリレーして完成間近な製品
棒状だった高級刃物鋼が職人の手を経て製品になるまで、およそ3ヶ月を要するそうです。年間生産数はおよそ10万丁。人気モデルになると、数年待ちのものもあるといわれています。
見学通路から工場を振り返る
検品工程
工場の隣に設けられた検品室。新社屋になり、新たに見学ができるようになった場所です。
検査室は壁が真っ白で清潔感がありました。
手前の個別デスクの方々は、製品に落ち度が無いかチェックの目も真剣そのもの。後方のテーブルで作業していたのは入社間もない若い人たちのようで、和気あいあいとした雰囲気の中、つめ切りの柄を何度も開閉する点検作業(耐久確認?)をされていました。
客の手にわたる前の最後の関門
ブランキングアートでおもてなし
エントランスホールにいた諏訪田製作所の精霊オブジェにはじまり、社屋内の至るところで鋼製のオブジェが私たちを迎えてくれます。これらは鍛造工程で出た7割廃材(ブランク材)を用い、職人さんたちの手によって新たな命を吹き込まれたブランキングアートたちです。
ものづくりの人たちだからこそものを大切にし、廃材さえもムダにしない。諏訪田製作所に働く人たちの、優しい気持ちがみえてくるようなオブジェたち。
レストラン・カフェにもあったブランキングアートのペンダントライト。球体の中に入っているのは、出雲崎町にあって日本で唯一の紙風船専門工場、創業大正8年(1919年)の(株)磯野紙風船製造所とのコラボによるもの。灯りが入るとブランク材がユニークな模様を生み出し、紙を通すことで温かみのある光が広がって印象的です。
そんなブランキングアートのペンダントライトのある階段を上り、再び社屋の二階へと向かいます。
ファクトリーショップ|二階
工場見学を終え、階段を上がった先にあるのが諏訪田製作所の直営ショップです。
ショップはエントランスホールに向かって左手側にあるので、工場見学をしない場合でも直に行けて気軽に利用できます。
店内には直営ならではの限定モデルやお得なアウトレット品も販売。自社製品のほか、地元メーカーが製造している洋食器やキッチン用品、国内外から取り寄せた生活雑貨なども並んでいます。
ご自慢のSUWADA製つめ切りは、各種試し切りをしてから購入できるのも、直営ショップならではです。
SUWADAのペット用つめ切り
味覚の秋の強い味方
栗の皮剥き鋏「栗くり坊主Ⅱ」は、1995年の通産省グッドデザイン選定商品です。
キッチンの便利グッズ購入
諏訪田製作所 銀杏の殻むき鋏 銀杏坊主
私は栗くり坊主Ⅱの姉妹品、銀杏坊主を購入しました。
お正月に作る郷土料理「のっぺ」に入れるため、黄葉を見に行った際にぎんなん茶屋で購入した大粒銀杏。この秘密兵器のお陰で、指が痛くならずにスムーズに割れて助かりました。(だから記事にタイムラグあり過ぎだって…汗)
やっぱり凄い、SUWADAの製品!
おしまいに
工場というと汚かったり、冷たい印象だったり、男臭かったり…、そんなイメージが強かった私ですが、開かれた新時代の工場は、何度でも行きたくなるミュージアムのようで楽しい場所でした。
今までSUWADAのつめ切りを手にしたことが無かった人なら、工場見学をすることで製品を手にし、その使い心地の良さにあっという間にファンになってしまうことでしょう。
私のようにすでにSUWADA製品を使ってきた人の場合は、自分が使っているものが全て職人さんの手作業により、丁寧に丁寧に仕上げられたものだと知ることで、ますます愛着が湧くのではないかと感じました。
たかがつめ切りに一万円近くも出すのは…、きっとそんな風に思う人もいるでしょう。しかし、購入後のメンテナンスもしてもらえるので、大事に使えば文字通り「一生もの」。決して高い買い物ではないと思います。
そして何より、農産物と同じように、生産者の顔が見える商品はやっぱり安心です。
今回はCOVID-19の第3波が広がり始めた頃の訪問で、カフェ・レストランは素通りしてきました。気になるメニューもあったので、世の中が落ち着いて自由に食べ歩きができるようになったら、今度はSUWADAのグルメも堪能してみたいものです。
Saturday, December 19, 2020|Dawn太 生後2,126日
SUWADA OPEN FACTORY(株式会社 諏訪田製作所)
- 住所:新潟県三条市高安寺1332|Google Map
- 備考:創業1926年