炎上供養の国上寺で物議を醸している本堂壁画「偉人空想絵図」|燕市
「久しぶりにお参りして来ようか。」と私が話しを持ちかけると、「本堂に問題になっている日本画があるから、ついでに見て来よう。」と言う丼父さん。
おぉ、確かに…。これは賛否両論ありそうだ。

話の舞台は越後最古の古刹「国上寺」

国上寺境内の様子
元明天皇和銅2年(709年)の頃、越後一の宮弥彦大神の託宣により建立されたのがはじまりとつたわる「国上寺(こくじょうじ)」。燕市内の国上山(くがみやま)中腹にあり、平成21年(2009年)に開山1,300年を迎えた越後最古の古刹です。
戦国の時代には上杉謙信公が、その後は越後長岡藩・牧野公の祈願寺でもありました。また、晩年の良寛さまが住まいした小さな草庵「五合庵」があることでも有名なお寺です。
近年では炎上供養寺としても知られる国上寺
地元の行事などで御祈祷する姿を拝見する機会もあるご住職。そうした日々のお勤めのなか、「樹木葬」や「ペット葬」など、時代の流れに沿った供養の在り方にも目を向けられ、その恩恵に預かり、新たに国上寺さまとのご縁ができた人たちも多いはず。
長らく途絶えていた国上寺の「火渡り大祭」が再開されるようになったのも、現住職の時代になってからだと記憶しています。

2010年火渡り大祭で炎の中を歩くご住職
ご住職ご自身もブログで同業者から批判された経験があったことから、2018年10月からSNSなどの炎上供養サイトを立ち上げ、その年に炎上した事柄や投稿を「火渡り大祭」でお焚き上げしてくださるという「炎上供養」が大きな話題となっているお寺さんでもあります。全国メディアにも取り上げられているので、ご覧になった方もあるのではないでしょうか。
これによって心救われる人があるならば、これも現代ならではの供養の在り方のひとつといえましょう。私自身、炎上供養については騒がれているほど気にはならないなかったのですが、今回ばかりはちょっと…。
境内入らずして「ん?…これは」

本堂へと向かう石段下に大きく、「官能」という、お寺とは無縁と思われる文字が躍っているのです。
以前からの青い案内板の方に
「階段を登ると、そこには癒しの浄土がございます。ご参拝ください。」とあり、これまでならば当然、▲2枚目写真の石段上がって最初に見る境内の様子がそうなのだな…と思うわけですが、問題の絵が置かれるようになった今となっては、その絵を指した言葉のようにも思えてならなくなる私(笑)。
「失念しました」 無許可のまま文化財に飾ってしまった

市指定文化財 国上寺本堂
30年余りという時間をかけ、享保3年(1718年)に再建されて以来、今日の姿がある国上寺御本堂。御本堂は、昭和53年(1978年)に旧分水町の文化財に指定され、平成の大合併のあとも引き続き、市の指定文化財となっている建造物です。
文化財の現状変更には届出が必要となりますが、寺側はそれを失念してしまい、設置後になってから市の関係者が気づいて問題発覚となります。
現在は許可申請段階にありますが、地元では問題視され、「撤去しろ」という市議会側、児童生徒の見学には不適切として「校外学習や遠足時に本堂を訪れることを控えるように」と、各学校に痛烈なお達しを出した市教育長など。正当な手順を踏まずに行われたこともあり、反対派と寺側で少々の対立が起こっているのも確かなようです。
そりゃぁそうだ。ご住職が身銭を切った「イケメン堂」に飾られているわけでなく、相手が文化財という、自分のモノであっても自分のモノでない貴重な建物なのだから。しかも、誰もが自由に見られるという場所であるのも、ある意味問題なわけで…。
アーティストの木村了子さんが手掛けた「偉人空想絵巻」
依頼を受けて絵を描いたのは、日本画の世界において現代的な「美男画」を描くことでも知られる、アーティストの木村了子さん。
間もなく平成の世が終わろうとしていた4月19日。本堂壁画の「偉人空想絵巻」は公開されました。
絵は本堂の四面に取り付けられ、濡縁を一周しながら無料観覧できるようになっています。作品は、本堂壁にはめ込むようなかたちで取り付けられた大作でした。

- 祈願寺のひとつが国上寺だった上杉謙信
- 幼い頃、国上寺に稚児に上がったという酒呑童子(しゅてんどうじ:当時の幼名は外道丸)
- 兄・源頼朝の追っ手から逃れ、平泉へと向かう途中で国上寺に身を寄せたといわれる源義経
- 義経に付き従い、自分も国上寺に隠れ住んだとつたわる武蔵坊弁慶
- 国上山の五合庵に住まいしていた良寛
壁画には国上寺とのゆかりがつたわる五人の偉人たちが、空想の世界で戯れている姿が描かれています。

私たちとは反対廻りで見学していた同世代の女性がすれ違いざま、ご自分の娘さんに向かって「何も目くじら立てなくたって、このままにしておけば良いのに。」と、話すでも無いような呟きを漏らして通り過ぎました。
咄嗟に「自分の家の玄関に飾れますか?」と聞いてみたい心境でしたが、私的には寺の本堂に飾られたこと以前に、作風的にどうも苦手で、半分も見ないうちに濡縁から立ち去りました。
それでも木村氏の作風からしたら、まだ大人しい作品たちなのだと思います。
多分こういう画風は文化財を有するお寺でなく、海外であったのなら絶賛されると思います…。そういう意味でも非常に残念。本堂壁の落書き防止にはなるかな?
国上寺では「偉人空想絵図」の公開にあわせ、「イケメン偉人御朱印(500円)」も用意されているとのことでしたが、いくら収集癖のある私でも、今回は御朱印をいただく気にはなれませんでした(汗)。
賛否ある絵を飾ったご住職の本意とは?
御本堂前には作者である木村氏とご住職の直筆サイン入りで、「偉人空想絵図」についてご住職からのメッセージがありました。

歴史に「たら」「れば」は禁句といわれますが、ご住職、私に勝る妄想好きとみえます(笑)。

ご住職の真意 ▲この一文の中にありました!
世の中でお寺離れが進む中、人を呼び込める手段を模索されているのですね。
私も親しい者同士での雑談の中、専業でお寺を運営していくには「最低でも300の檀家が必要だ」というような話を聞き齧った記憶があります。回向寺であっても、昨今は檀家数が減少傾向にあるとのこと。知り合いのお寺さんはサラリーマンとの兼業です。まして、檀家を持たないお寺さんが将来を懸念するのも当たり前のこと。
普通のことを普通にしていても何も前に進まない。まずは若い世代が目を向けてくれるよう、人気と知名度が高く、少々奇抜な作風を持つ作家さんに依頼し、さらなる話題性を生み出そうとしたのでしょう。

私が苦手だといった「イケメン偉人空想絵図」も、若い世代や女性には人気のようで、絵画が飾られてから参拝者が増えたそうです。(…と言っても、休日に伺って▲この状態ですので推して知るべしですが。)
さらに言えば、話題性だけで寺にやって来た参拝者が、どの程度、お寺に利益をもたらしてくれるのか?二度、三度と訪れたくなるような、魅力ある場所と思ってくれるのか?
古刹にあって相応しいとは思えない絵をあえて文化財である建物に飾り、賛否の渦を巻き起こし「はい、おしまい。」ではないはずですよね。きっとさらにここから、採算に見合うような商業的戦略が繰り出されることと思いますし、私はそう期待しています。
おしまいに
「子年 国上の御開帳」
来たる令和二年(2020年)春は、12年に一度の国上寺御開帳の年にあたっています。
御本堂の中に安置されている御本尊は「上品上生阿弥陀如来」。木像の座像ですが、見上げるほどもある大きな仏様で、開かれた厨子の前に立つとピンと背筋が伸びるような緊張感があります。来年は12年ぶりに、あの感動の時が巡って来るのだと思い、御本尊様との再会を心待ちにしている私です。
その時まで、御本堂壁画問題がどう収束するのか?しないのか?国上寺さまのモラルと品格あるご決断と対応を、境内の良寛像と共に見守りたいと思います。

Saturday, June 29, 2019
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